Superfluid 3He in Parallel-Plate Geometry


Vortices of Superfluid 3He-A

単純な超流動ヘリウム4中の渦やS波のBCS超伝導体においては秩序変数には位相の自由度しかありませんから
そのU(1)の対称性に対応して渦度が整数で中心に芯(singular core)のある渦しか生まれません。
それに対して、超流動ヘリウム3はSO(3) X SO(3) X U(1) の軌道とスピンの自由度があるため超流動状態になっても
残っている自由度があり、中心にsingular core の無いcontinuous vortex など多様な種類の渦が存在します。

境界条件のないバルク状態では10種類近い渦が見つかっていますし、物性研では円筒容器内において3種類の渦構造が回転や磁場の条件によって現れることがわかりました。


Laounasmaa and Thuneberg, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 7760 (1999)


直径200ミクロンの円筒容器中で観測された3種類のNMRスペクトラム。それぞれ、異なる渦構造に相当する。
Ishiguro et. al., Phys. Rev. Lett., 93, 125301 (2004)



Half-Quantum Vortex in Parallel-Plate Geometry 

並行平板中では、その容器の対称性の違いから、異なる種類の渦が存在することが期待されます。そのうちのひとつとして渦の循環量子が1/2の渦が存在する可能性がSalomaa&Volovik (1985)によって指摘されました。通常の量子渦では循環量子は整数でなければいけません。それは波動関数が渦の周りを一周したときに位相を2πnだけ変えるからです。n = 1/2 だと位相がπ変わってしまって、波動関数の符合が変わって一価性の条件を破ってしまいます。ところがヘリウム3のA相ではこれが許されるのです。それは、A相のオーダーパラメーターが

とかけるので、スピン部分をあらわすd vector と軌道部分の(m + in) の部分が同時に符号を
変えればいいからです。


Half-Quantum vortex の模式図。渦を回ったところで、d vector とm, n が同時に符号を変える様子をSpin fieldとOrbital field を分けて表示してある。

Parallel-plate geometry


並行平板セルは穴の開いたフィルムと空いていないフィルムを積み重ねることで作成しました。下の図にあるように厚み12.5μmのフィルムに二つの穴とその間をつなぐパスを作成し、厚み25μmのフィルムに右側の穴に対応するフィルムにだけ穴を開けてそれを積み重ねて
試料空間を作りました。左側の写真が断面のSEM画像で、非常に綺麗に積まれていることが確認できます。NMRの信号を稼ぐためにこの空間を110個作成しスタイキャストの中にうめて外側にNMR用のピックアップコイルをつけたのが右の写真です。


これにプラチナの温度計とリファレンス用のバルク空間も熱交換器につけられるようにしたのが下の写真。




NMR spectrum at rest & under rotation

静止下におけるNMRスペクトラムを示します。

実線で表されているのが並行平板中の超流動ヘリウム3の信号、点線がバルクの空間中の超流動ヘリウム3の信号です。下の図は周波数シフトをプロットしたものですがほぼ正反対に周波数シフトしていることが見て取れます。

これは超流動ヘリウム3における周波数シフトが

というように l-vector と d-vector の間の角度で表され、並行平板中では狙い通りに l-vector と d-vector が垂直になっていることを
表しています。

そして、回転によるスペクトラムの変化が次の図です。



周波数シフトが0の付近で1.0 rad/s 以上から信号が現れ、1.8 rad/s で最大、その後減少している様子が観測されました。

丁度0のあたりに固体の信号があってわかりづらいのですが、引き算すると上の右の図のようにはっきりと変化が見て取れます。


Evidence for vortices in the parallel-plate geometry
先ほどのサテライト信号の大きさを回転数に対してプロットしたのが次の図です。おおよそ 1 rad/s 付近から現れて 1.8 rad/s から減少し、減速するとすぐに0になり、その後はゼロ回転まで0のままである様子がわかります。
この振る舞いは図中の黒の実線で示したようなモデルで理解できます。すなわち、1 rad/s からtextureのフレデリック転移が常流体速度の速い円筒の外側から起こりはじめ、1.8 rad/s で渦が入り始める事で相対速度が下がって信号が小さくなるというモデルです。



渦が入る前の様子。vFr に相当する速度場を持つ領域(右の図の紫の領域)でフレデリック転移が起こる。




渦が入った後の様子。渦は中心にVortex領域を作りそこでの相対速度場Vs - Vnをゼロにする。これによってフレデリック転移のある領域が壁側へと押しやられる。


以上から渦が中に入ったことがわかるのですが、肝心の渦のNMR信号はどうでしょうか?上の図は減速時の5.5 rad/s と静止下のNMRスペクトラムを比較したものなのですが、渦が何千本と入っているにもかかわらず。全く信号が見えません。同じ回転数のバルク液体中で全体の1/3もの信号が渦として現れているのとは対照的です。
このことから、並行平板中における渦というのはサテライト信号を持たない、砂割りバルク液体中の渦のような"soft core"を持たない"singular vortex"であることが考えられます。
残念ながら今回の実験においてはこれが渦量子1の普通の渦なのか、渦量子1/2の"half-quantum vortex"であるかは区別できませんでしたが、並行平板という新しいgeometryを用意することで今まで観測されなかった渦が存在することが明らかになりました。


Reference

"Spin Wave and Vortex Excitations of Superfluid 3He-A in Parallel-Plate Geometry"
Phys. Rev. Lett. 101, 025302 (2008)

"Rotating Superfluid 3He-A in Parallel-Plate Geometry"
LT24 Proceedings, AIP Conf. Proc., 850 (2006) 185